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忘備録 思考録 未来日記

「研究者の独創性はいかにして体得されうるか(試論)」(2008.3.16深井純一先生からの書簡)

すぐれた研究者となるには何よりも独創性をゆるぎなく体得することが不可欠だということは、すでに聞いておられると思います。問題はその体得がいかにして可能になるかということです。私は2つの基本点を提起したいと思います。

 その第1は、自分の目指す分野と専攻テーマに関する大家、権威者とされる学者の理論を批判的に検討することです。一般に院生の研究の基礎作業として先行研究の概観が求められますが、その段階から批判的摂取が始まるべきなのです。私が院生だった時、宮本憲一氏の最高の著作である『社会資本論』が刊行されましたが、私は『農業経済研究』(学会誌)の書評欄に三点を批判する書評を寄稿して、宮本氏に掲載誌を送り、東京から大阪市大の宮本研究室まで鈍行にのって着弾のいかんを確かめに行きました。その時宮本氏は2点について私の批判を的確だと認めてくださり、後に考察を深めてみると(おっしゃったのでした)。私の批判は誤ってはいないとしても致命傷になっていないと思ったのですが、氏の若い私に対する謙虚な態度が気に入って、それ以来門外の弟子となりました。

他方その後・・・(中略)

私は自らの学部・大学院時代の恩師・古島敏雄氏に対しても批判的摂取の姿勢は変えませんでした。1983年に、氏のお宅を訪ねて「私の大学院の後輩たちとともに、先生の学説を批判的に検討する研究会を毎季、年4回開催したいが、先生にも参加していただけないか」と申し込んだのです。先生は大喜びで参加を快諾され、体力がないのでご自宅を研究会の会場として使ってほしいと言われました。それから2年間、約8回の研究会が重ねられましたが、夫人の話では2日前から緊張して研究会の準備に没頭されるのが常だったそうです。この研究会の成果が、古島・深井編『地域調査法』として刊行されたのです。

・・・(中略)・・・

 2つ目の基本点は、第一次資料を発掘する、あるいは当事者の証言を集めてそれを創り出すことです。自分のテーマに関わる現場の自治体、福祉施設などの職員、住民などとの血の通い合う関係を構築して、本音で語ってもらえる証言:内部資料を提供してもらえる条件を確保することです。この点は、私の「最終講義録」「水俣病…内部資料の収集過程」において具体的に触れておきましたが、”協力してもらう”のでなく”一緒に共同研究する”間柄に接近する努力を重ねることです。地元の新聞記者や図書館司書もその共同研究の相手に加えることです。

 

 2007年度後期から同志社大・大学院総合政策科学研究科で『社会調査法』という受講生5名のゼミ的な授業を担当し、今年2008年度後期にも開設の予定です。その授業において上記の第2点に関わる私の経験をお話ししています。