読んだ・見た・聞いた・考えた

忘備録 思考録 未来日記

北本市における学童保育への指定管理者制度導入のせめぎ合い~説明力のない市・疲弊する父母…今後は「好条件での指定」を引き出す運動へ~(2013.2)

1.運営体制の改善が必要だが手を付けられなかった時期(~2008年度)

北本市の学童保育は、1975年に当時の子どもを持つ親たちの共同保育からスタートし、設置運動によって各小学校に設置されてきた。しかし1982年に市議会が「公設民営」を決定し、それ以降、一部を除いて北本市学童保育連絡協議会(以下「連協」)によって統一運営が行われた。現在では全8小学校区・11の学童保育室を統一運営している。

指定管理者制度に関しては、地方自治法改正時より、市側から制度導入とNPO法人格の取得の要請があったようである。実際、障害児学童保育室や障害者支援施設などに指定管理者制度が導入されるに至っている。

連協では市側に対して同制度が導入されると保育の継続性が損なわれるのではないかという不安などについて意思表示をしており、市側も強硬な導入には至らずにいた。しかし連協による運営については様々な問題があり、2008年度には市監査委員会からは、①補助金を上回る余剰金がある、②決定事項の記録、予算執行に関する敬意と責任が不明確である、③父母名簿がなく責任所在が不明である、④父母の積極的参加がない、⑤規定の整備が不十分である、⑥経理の監視、指導員の服務の徹底が必要である、等の指摘がなされた。これらの指摘は監査委員の認識不足や担当課の不作為が多々あることは否めない。しかし、指摘された事項以外の点においても、市全体として学童保育の運営力が低かったのは事実であった。2010年に行った利用者アンケートにおいては、役員等をしなくてはならないことに対する負担感、施設の狭さや古さ、保育料の軽減(きょうだい割引など)、閉室以降の保育サービスとの連携、学童間の指導員・保育の質の格差の是正、長期休暇中や土曜保育の開設時間の不一致、保育内容の充実(学習・文化活動など)、保育の質等に関する意見や苦情を言える場の確立、保育中の事故に対する誠意ある対応の仕組みづくり、障害を持つ子どもの保育受入れプロセスの明確化と透明性などの指摘があり、ハードの問題などはさておき、運営改善の余地は多々あった。

その後市監査委員会からの指摘に対しては、内部留保に対する正当な論理が確立できずに21年度予算は前年度に比して減額される一方、運営体制の改善についても議事録の整備や様式の統一に留まり、父母の要望に応え、指導員の労働条件の整備に対応した取り組みを行うには、さらに運営体制を強化する必要があった。

  2.大規模分割問題による指定管理者制度導入への急接近(2009年度)

2010年4月から71人以上の学童保育室には補助金を拠出しない」との厚生労働省の方針、いわゆる大規模分割問題との関連で、指定管理者制度導入に対する市側の動きは加速した。当初、20099月に、市担当課が各学童父母会に対して、「案①設置・管理条例の「小学校低学年を対象とする」に従い、4年生以上は退室してもらう」「案②入室基準を設けて70人で足きりをする」という考えを示してきた。これに対して各保育室の父母会は猛反発・紛糾することとなった。その後市担当部長より「条例を改正して、6年生まで入所可能とし、また1小学校区複数学童設置を認めることとし、現行の大規模クラブ3か所を分割する。その際にはNPO法人格の取得と指定管理者制度導入を行う。これが受け入れられないのであれば、厳格な入室基準を市側が設け、大規模学童の児童の足切りを行って分割は行わない」との発言があった。これまで利用していた児童が利用できなくなる危惧があることから、取り急ぎ大規模問題解消を願って市側に依頼し、指定管理者制度に関しては別途説明することを求めたが、12月に行われた市による指定管理者制度に関する説明会では、父母による反対意見が続出した。しかし、2010年度予算において学童保育分割整備金が可決され、同年度中に3か所の分割を行うことだけは確定した。

このように本来性格が異なるはずの、大規模分割問題と、指定管理や法人格取得の問題とが、取引材料として提示された。最終的には市長も交えて2009年度の連協役員が面談し、市側は大規模分割をする、すなわち指定管理者制度を受け入れたという認識が形成された。その後指定管理者制度導入に関する具体的な説明は父母や指導員に全くなく、疑念や不安について市側に文書で投げかけたものの、回答はなかった。

 3.指定管理者制度の学習活動と法人格取得の準備(2010年度)

連協では2009年度より指定管理者制度特別委員会を設け、2010年度も新たな委員たちは何が問題かがわからない段階から学習を続けた。委員になった父母たちは、勉強すればするほど、指定管理者制度導入反対の認識を深めたが、委員ではない親への認識はあまり広がらなかった。同委員会の議論の成果を取りまとめ、議員懇談会を開催したが、参加議員は少数にとどまった。

一方、市担当者と連協役員等とは、何度となく面談があり指定管理者制度について投げかけがなされた。201012月には、保健福祉部長、子ども課長などが指定管理者制度についての説明を父母会などで実施した。参加した保護者からは、これまで述べたような疑念がある点、全国的には学童保育への指定管理者制度導入によって弊害が多数報告されている点、業務委託形式でそもそも問題はないという点、また今の父母会・指導員の運営においても組織基盤・運営基盤がぜい弱なため、単にNPO法人化しても指定管理に耐える運営体制は整えられていない点、などについて訴えた。

指定管理者制度に関する学習活動と当時に、特別委員会を設けてNPO法人格取得への準備も進めた。特別委員会では、先行して法人格を取得している団体から講師を招いて学習し、定款の作成などを進め、また運営体制のあり方についても定めて行った。また連協としても、8小学校区の学童運営に関して管理的経費は全く計上することなく丸投げしてきたことについて市に問いただし、NPO法人格の取得に耐えうるような組織基盤・運営体制が整えられるように、人的・金銭的支援をすることを約束させた。その結果、2011年度よりようやく管理的経費の一部を委託料に上乗せして予算されることとなった。また、万が一指定管理者制度が導入された時には、選考委員会に利用者代表を入れるように訴え、「検討する」との回答を得た。併せて行政担当者には、運営基盤の確立と指定管理者制度とは分けて考える必要があることを申し述べたが、管理的コストをさらに計上させる点については、指定管理者制度導入を前提としたものであるという認識を現在も変えてはいない。

 4.社会的責任のある子育て支援団体へ:NPO法人化と運営体制の整備(2011年度)

2011年春の統一地方選挙では市議会議員及び市長選挙が実施されることから、立候補予定者に対してアンケート調査を実施した。回答候補者が少なかったものの、関係者の合意なき指定管理者制度の導入に対して反対の意思表示をした市議会候補者はすべて当選。しかし、学童保育への指定管理者制度導入に反対の意思表示をした市長候補者は落選して現職が再選し、その考えに同調するであろう議員も過半数を占める状態となった。

2011429日に実施した2011年度第33回連協総会では、NPO法人の設立と連協の解散及び新法人への移行を決議した。新法人の名前は各学童の子ども達から募集し、投票によって「特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ」となった。ちなみに北本市の市域はうさぎの形をしていると小学校で教えられるとのこと。

法人設立が承認され、2年任期の理事による理事会を中心に、財務委員会、人事・労務委員会、保育事業委員会などの委員会活動を行いながら、様々な課題の解決を図ることとなった。まず、夏の電力需要のひっ迫に伴う土日祝日の開室に関しては、さっそくニーズ調査を行って一定数の利用が見込まれることから開室する措置を取った。その後災害マニュアルの整備、諸規定の見直し、事故報告書の集計、各父母会会計から本体事業を引き上げることによる負担軽減策の検討、苦情解決制度の確立など、これまであまり手を付けてこなかった部分の見直しや、新たな仕組みの確立などを行ってきた。

 この年度の指定管理者制度に関する動きとしては、7月に市長とのタウンミーティングがあり、市長は改めて指定管理者制度導入の意思を表明、市役所担当課に法人との定期的な打ち合わせや理事会の出席を指示し、できるだけ早い時期に導入することを目指したいとした。市長の認識は当日のブログに率直に表れている。

 ・・・(略)数年前に全く同じ趣旨で連協とタウンミーティングを行っています。その時出席した方はいますかと尋ねたところ一人もいませんでした。 出席した役員だけで指定管理者導入について了承するわけにはいかないというので、それではまた何年かのちに全く同じ話をすることになるでしょう。せっかく指定管理者について理解していただいても皆さんは卒業され、また新しい方が勉強するところから始まり、不安と不信で結論が出ない。責任者は私であり、指定管理者の導入を決定してもよいのですが、そうするとおそらく反対運動がおこり、署名活動が始まり、街宣車が市内を走り回り、いらぬ混乱を招くことになるでしょう。

学童保育所に関しては現在職員が配置されているわけでもなく、経費節減ということはそれほど念頭にはありません。逆に事務局体制の強化や給料のあり方を見直すことで経費が増大することもあるかもしれませんが、適正な運営をするために指定管理者制度の導入が必要であると考えています。少なくとも抽象的な議論ではなく、指定管理料がどうなるか等の具体的な検討をしない限り同じ繰り返しではありませんか。子どもたち、保護者のことを考えているのは私もまったく同様です。

指定管理者が連協以外ということもよほどの不祥事等がない限り考えられません。次の市長になったらどうなるかまでは保証できませんが、私はお約束できると思います。

(中略)指定管理者制度導入を了承したということではなく、指定管理者になった時に指定管理料がどうなるか等を具体的に一緒に検討する、ということを確認して終わりました。   

http://kenji-ishizu.seesaa.net/article/217699355.html

北本市長石津賢治の情熱ブログ」より)

 

結局のところ、数年前のタウンミーティングと同じことを繰り返し、また今後も繰り返す可能性があるのは、市長や市担当者の説明力の不足、それにともなう利用者・運営者である連協やNPOとの信頼関係の形成ができていないことに起因する。その努力が不足しているゆえに「混乱」や「反対運動」が発生する可能性があるのだが、いつの間にか「連協や親の<了承>がないとすすめられない」「了承しない理由がわからない」という苛立ちの物言いになっている。

はっきり言えば、この数年間で親たちは指定管理者制度に関する勉強を強いられ、子どもと過ごしたい時間を割いて活動を行っているという点で、すでに「混乱」を招いている。さらに言えば30数年間市は学童保育事業に手をあまりかけてこなかったという意味で、ずっと混乱状態である。この混乱状態を終息させる決意と行動が、市長等執行部や市議会議員にはあるはずであるが、そのような認識が不足していると言わざるを得ない。我々の働きかけも不足していたことも一因だろう。 

5.迷走する市・好条件の指定を引き出す必要性(2012年度・今後)

 2012年度、担当課の課長が異動、改めて指定管理者制度の導入について要請がある。その後何回か面談し、法人理事会としては指定管理者制度に関して賛否の立場性は表明せず、導入された際には指定されうるように基盤を整えると同時に、適正な指定管理料が支払われるように十分な協議を行うこと、父母会連合会や指導員、指定管理者制度対策特別委員会などには十分説明するように強く要望していた。しかし夏に入ってから、9月議会で指定管理者制度導入について議案を上程するので、随意指定の場合は法人で受けるのか否かについて回答をしてほしいとの請求があった。我々の要請により父母および理事会での説明を行ったが、特に父母会へはわかりやすい資料提示が必要だから用意しておくようにと教えたにも関わらず、全く資料を持参しないで説明に臨む姿に、関係者は諦め・呆れを感じた。説明会や理事会との話し合いでは案の定批判が噴出し、その後恐れをなした担当課からは9月議会には出さないとの連絡を受ける。

12月議会にも上程されなかったが、担当部署としても市長から指示されている手前どのように進めたらいいかお手上げの状態で、「合意が得られた学童保育から指定管理者制度を導入していく」などという、我々にとっては最悪のパターンの導入案も構想しているようであった。定期的に実施している父母会連合会にて説明をし、親が持つ疑念や不安に一つ一つ丁寧に対応していくほかないのではないかと我々が伝えたところ、先日127日に行われた父母会連合会に市担当者が参加した。持参資料は相変わらず仕様書案や条例案のみで、一般の父母の疑念や不安にこたえるような内容ではない。また、2013年度の9月議会に議案を提出したいので、父母の要望を聞いていきたいとのことだった。父母会側が以前より示していた質問や意見(選定及び評価委員会に利用者代表を入れること、事務量が増えることから管理費に関してさらに上乗せする必要があることなど)などについては明確な答えや方向性さえも示せない。このような市や担当課の姿勢が、結果としてこの問題を長引かせていることに、まだ理解していないのである。

市はもう導入を前提としている以上、このまま同じことを繰り返すのは親にとっても法人にとっても疲労感のみが残る。2013年度は、より良い条件で指定を受けるための勉強や働きかけをし、これまで以上に良い保育ができるように、指導員体制や運営体制を強固なものにしていくことが必要であると考える。

 6.まとめ 

共同保育、親の会による学童保育の運営は、「市民活動」「NPO活動」「第三の公共」などと言われるようになったこの20年のもっと前から、時代を先取りした活動であったとえいる。学童保育の制度が劇的に拡充することがない中では、行政直営や社会福祉協議会委託の学童保育は保護者ニーズにそぐわない硬直化した運営にならざるを得ず(政府の失敗)、株式会社の参入による民間の学童保育がつくられるものの高い利用料で普遍的に利用できるサービスにはならず(市場の失敗)、そんな中父母会や関係者による公設民営学童や民設民営学童は、利用者の参画による柔軟な運営を目指すものとして期待がもたれる。

しかし、すくなくとも北本市における学童保育の運営については、もちろんいい面はたくさんあるものの、諸課題があまりにも多いまま、ある意味手を付けられないで長らく運営が継続されてきたと言わざるを得ない。入室審査も本来は市がやるべきことだが、あいまいなまま任されてきたために、個々の父母会で入室を断るなどのことも実際にはあった。また利用時間や父母の負担も保育室によってまちまちだったり、労務・財務・危機管理などについても素人の父母が1年スパンで考え改革する必要があるなど、自らの力で組織を改革する力に欠けていた(ボランティアの失敗)。

法人化により、自立した市民による責任ある子育て支援団体としての学童保育運営団体への成長を目指しているが、今後も運営の担い手の確保が課題になることは同じである。個人的には働く父母と指導員による運営は、今後は限界をきたすと考えられ、幅広い年齢層から法人運営の中核となるような人々の協力を得ていく必要性を感じている。

また一方で、行政においては、今後指定管理者制度を導入することによって、運営法人を単なる一事業者として扱うメンタリティが形成されるのは必至である。このようになってしまうと、行政と市民とを分断し、協働して子育て支援事業をつくりあげていく契機を失わせてしまうことから、単なる一事業者として扱うのではなく、子育て支援を遂行する対等なパートナーとしての関係を結べるよう、変わり続ける担当者に対して粘り強くかかわっていくことが必要である。